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2011年11月26日土曜日

紀美子の身勝手は、父の身勝手の反映ではないのか?茅野市男女共同参画講座・第20回『噂の娘』



@@@@やまねこ通信154@@@@

本日は仲間たちと2か月一度のセミナー、茅野市男女共同
参画講座の日。諏訪理科大4号館432室、午後1時開始。テ
キストは成瀬巳喜男『噂の娘』(1935年)。

開催時間は3時間に短縮。前回『妻よ薔薇のやうに』と同
じ年代の作品。前回『妻薔薇』では<永遠の少年>の父が
二人の妻二つの家庭をもつ。東京では法律婚の家庭、信州
では事実婚の家庭。東京の娘君子が結婚を控えて父を連れ
戻しに信州に赴く。信州にはお雪が小学生の男の子堅治、
妻の連れ子の静江とともに父を囲んで「幸福」な家庭を営
む。君子は父の気持ちを理解して事実婚の家庭に父を送り
返すという物語だった。二人の妻、二つの家庭のコントラ
ストが明確だった。

『噂の娘』では家庭は一つであるが、「妻」が二人いる。
灘屋という酒屋の当主健吉は婿養子で繁盛していた店が傾
きかけたところに入籍。現在、妻はすでにない。長女邦江
と次女紀美子、隠居した江戸っ子で道楽人の舅の四人家族。
他に番頭、女中、小僧が店を支えている。健吉は左前の店
を何とかして再建すべく焦っている。

健吉には妻の存命中からお葉という「妾」があり、竹葉と
いう割烹を営んでいる。お葉は「妾」といっても健吉に養
われてはおらず、むしろ窮地にある灘屋を救うため、繁盛
している竹葉を売りに出す心づもりである。お葉のことを
長女邦江は理解しており、自分が結婚したら灘屋に入って
もらうつもりで祖父を説得している。

『妻薔薇』では二人の妻がコントラストであった。教養あ
る歌人で家事をほとんどすることなく経済にも無頓着な本
妻悦子。もうひとりは良妻賢母を絵にかいたような尽くす
妻信州のお雪であった。

『噂の娘』ではこのコントラスト、女性の二つのパターン
は二人の娘の姿に描き出される。長女邦江は灘屋の帳場が
定位置。和服を着て店の経営、台所、一家の将来に心を砕
いている。次女の紀美子は反対に、最新流行の洋装で街を
闊歩するモガ。帳場に出ることはなく、帳場のお金だけが
関心の的。二階の和室に大音声のジャズをかけ女友達を呼
んでダンスに余念がない。紀美子はそろそろ20歳を迎える。

邦江が見合いするところからドラマが動き出す。見合い相
手の男性は裕福な相模屋の跡取り息子の帝大生。邦江が結
婚することで灘屋の苦境が救われるかもしれない。ところ
が彼は邦江ではなくモガの紀美子に関心を寄せるようにな
った。邦江はそれを知って悲しむ。けれど怒りや悲しみを
表にあらわすことはない。

実は灘屋一家には「秘密」があった。健吉はお葉との間に
子どもを作っていた。長女邦江は結婚して灘屋を離れ、父
とお葉とその娘との家族が灘屋を受け継ぐことを望んでい
た。けれど、お葉の娘はどこで育ったのか。果たして生み
の母がお葉であることを知っていただろうか。

知らなかったのである。お葉の娘は灘屋の次女紀美子だっ
た。紀美子は20歳を迎えるまで実母を知ることがなく灘屋
の次女として育っていた。「新しい時代」をファッション
で体現する紀美子は、灘屋の死んだ跡取り娘と番頭だった
父健吉のような「政略結婚」を蔑み、恋愛結婚の相手を見
つけることを望み自分にその力があると考え、長女邦江の
見合いを揶揄していた。

クライマックスは紀美子の20歳の誕生日に起こる。紀美子
は二階でジャズのレコードを掛けて女友達にボーフレンド
から送られたバースデーカードを見せびらかす。それは邦
江の見合い相手の青年だった。

そこにお葉が邦江と健吉に乞われて、初めて灘屋を訪問す
る。父健吉は騒々しいジャズの部屋から紀美子を呼んで伝
えた。「お前を生んだお母さんだ。挨拶なさい」。ところ
が座敷に正座するお葉を紀美子は立って見下ろしたまま、
返事をしない。やがて言う。「嫌です。今になってそんな
こと」。健吉は「今日こそお前のわがまま叩き直してやる」
と手を振り上げる。「私わるくっても構わない。私お母さ
んなんかいらない。お父さんだって家だって何もいらない」
と紀美子は叫び、家出支度をする。

ここに来るまでに健吉はもっと適切な告知の仕方がなかっ
たのだろうか。婿養子と言っても妻の存命中から「妾」を
もって子どもを作った健吉は、自分の生み出した「一家の
秘密」を紀美子にどうやって伝えたらいいのか、少しは工
夫を考えなかったのだろうか?「わがまま」な紀美子をど
うして放置したのだろう?

おそらく灘屋一家と死んだ妻、生まれた紀美子に対する罪
悪感の故だっただろう。父健吉は紀美子に負い目があって
父として言うべきことが言えなかったのではないだろうか。
その意味で紀美子の「身勝手」は、父親健吉の身勝手の結
果であり反映ではないのか。


この身勝手な父親の後始末に心を砕いていたのは長女邦江
だった。娘が父親の身勝手の生み出したトラブルを救済す
るところは、『妻薔薇』と共通している。

終焉は突然にやってくる。警察が灘屋を訪問し主人を呼び
出す。「一家の秘密」が暴かれたこの日、もう一つの秘密、
灘屋の酒造のインチキに警察の手が入ったのだった。父健
吉はこうして二つの罪を暴かれ二重に処罰されるところで
幕が下りる。

灘屋一家を都会の「噂話」が取り巻いている。没落する一
家を町の噂が他人事として噂する。「悲劇」は中和され、
どこにでも起こる物語として「噂」の幕が下ろされ、観客
はその外に置かれる。悲劇の悲喜劇化。おそらくこれは、
多数の人々が他者に対して無関心に暮らす近代の都会の風
景の造形化、映像化ではないだろうか。

血縁共同体という前近代からの遺制「家族の物語」が「モ
ダーンな都市」のパースペクティブの中に描かれたことが
冒頭と結末で明らかになる。それが灘屋一家の転変のドラ
マ『噂の娘』の構造であった。

本日はミニ講座の拡大版で「男性の男女共同参画」につい
てお伝えします。いわば「社会科の時間」。

この10年間、男女共同参画はなかなか進みませんでした。
それは男性社会が男女共同参画を「女の問題」「家庭の中
の小さな問題」と考えていたからです。男女共同参画を進
めることで経済や社会全体の活性化につながり、男性の自
殺率の増大に代表される閉塞状況を打ち破る変革につなが
ることが理解されてこなかったのです。

男女共同参画は、国連の進める「平等・開発・平和」の一
環を担う世界的トレンドです。

昨年7月に発表された「第3次男女共同につながることを
参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(答申)」
を紹介しつつ、私たちの生きる今日の社会がどんなものか、
若者たちに引き継がれる未来をどうしたらいいのか。こん
な社会の現実をお話しします。あらまし次のような現実で
す。
1 少子・高齢化の進展と人口減少社会の到来。人間関係
   の希薄化。
2 経済の低迷と閉塞感の高まり
3 非正規労働者の増加と貧困・格差の拡大
4 国際化の進展と国際的な人の移動の増加

以上のことがらすべてが、男女共同参画とかかわってい
ます。国の屋台骨は男が支えるもんだと勘違いした男性
社会が長引けば長引くほど、解決の道は遠のくのです。

今回より、資料の冒頭に次のフレーズを掲げます。

   脱原発・自然エネルギーの社会を、男女共同参画の社
   会にしましょう!

資料の末尾には次のフレーズを書きました。

丸岡秀子『ひとすじの道』
読書会、セミナー、有料映画会等を5月以後に予定。
「命を生みだす母親たちは、戦争に反対します!」
「命を生みだす女たちは、原発を許しません!」
「でも、女たちばかりに言わせないでよ!男たちだって、
放射性廃棄物と同居の未来は嫌だよね!」

うらおもて・やまねこでした。


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