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2012年10月13日土曜日

山中伸弥京大教授ノーベル賞受賞が明らかにする若者の雇用問題


@@@@やまねこ通信226@@@@

山中教授はこの数年、ノーベル賞受賞を予想されメディ
アに登場していた。奈良先端科学大での研究が実を結び、
京大に移って2年目の2006年、英国の学会誌セルに論
文を発表してからノーベル賞受賞は6年目、山中教授は5
歳の若さである。

物理と化学の部門には8人の受賞者。けれど医学・生理学
部門は利根川進氏についで2人目である。

●受賞発表後の山中教授はメディアに登場し、第一に、日
本国に支援してもらったことに感謝した。次には、家族に
感謝した。まことに優等生的で良くできたご返事だこと。
毎年、候補に上がっていたから、準備期間があったのかも
しれない、とやまねこは思った。

●受賞発表以後、毎日メディアに登場する山中氏。二日目
には妻と同伴だった。妻・山中知佳氏は皮膚科医とのこと。
受賞会見は、妻の職業には触れなかった。受賞者が女性で
夫に職業がある場合、それに触れぬままのことはないだろ
うにね。

山中千佳氏は、皮膚科医としてではなく、山中教授の妻の
役割で出ていた。

女性が自分の職業や役割のためでなく、夫の職務や功労の
ため、妻としてメディアに出る時、夫を立てるためか、過
度に控えめに振る舞い、途切れ途切れの言葉以外、まとま
った発言をすることのない姿を見て、げんなりすることが
多かったやまねこ。

いまなお「良妻賢母神話」の他のモデルが見つけられては
いないのだろうか?友だちのように振る舞う少し幼稚な感
じのパターンは、若めの政治家の妻に少なくないけれど。

山中佳氏はやはり控えめであった。けれど、夫を過度に
立てることなく、「へりくだらず、おもねず、おごらず」、
家の中でもこうであろうと思わせる、自然な語り口で夫の
人柄を紹介した姿を見て、やまねこはいたく好感をいだい
た。

●山中教授のノーベル賞受賞は、これまでの受賞者の場合
と、違うことが2,3ある。

第一に、これまでの受賞者は、30代に発表した研究の成
果のゆえに70代以後に受賞する人が多かった。過去の栄
光に光が当てられたとの趣だった。さらに、米国など外国
の研究機関での業績だったり、在住だったりすると、日本
人の受賞と言っても、栄誉だけにフットライトが当てられ
るが、国内にはほとんど実際の影響を及ぼさぬ一過性のも
のであることが多かったのではなかっただろうか。

第二に、理論物理学など、ビジネスには無縁の学問領域が
多かった。ノーベル賞は、根本的な変化をもたらす象牙の
塔の基礎研究に光を当ててくれる賞であった。

第三に、これまでのノーベル賞受賞者は、カミオカンデの
小柴さんを除くと、単独、あるいは小グループでの研究で
あった。

●ところが、山中教授の場合、本人が語る様に、外国の学
会誌に論文が実験結果が掲載されて6年後、医療面での実
用化がまだなされていない段階での「早すぎる」受賞であ
り、ノーベル賞受賞理由に述べられたように、「革命的」
理論、技術である。

第一に、京大のiPS細胞研究所は、ビッグサイエンスのC
OEの中心として、多数の若手研究者を結集し、実用化を
めざして、プロジェクトが現在進行中である。今後の発展
によって、人の生殖の原理を覆す可能性もすでに見えてお
り、社会的影響力がきわめて大きい。

このことに関して、山中教授はすでに、iPS細胞研究所に
倫理の専門家を専任で採用することを表明している。

第二に、武田薬品などの製薬会社との共同研究が進行中で
あり、バイオ関連のビッグビジネスの可能性の夢がふくら
み、資本の後ろ盾が無限大の領域であるらしい。受賞を機
に、バイオ産業を国の柱にし、国内の産業、ものづくりの
衰弱を食い止めようとの構想も、財界、政府で語られてい
る。

●本稿で、やまねこは、第一の問題、中でも、研究者の雇
用問題に限って考えて見たい。

国の予算重点配分に感謝し、家族に感謝した後に、山中教
は何を語っただろう?

「受賞研究は自分一人の仕事ではありません」。
奈良先端研以来の共同研究者、高橋和利さんの名前を出し
もした。学会誌セルに掲載された研究は2人の連名だった。

現在、京大iPS細胞研究所で働く研究者のうち、正規雇用者
は10%という。
「今後、全員とは言わないが、できるだけ多数の研究者を
正社員にしてほしい」。
一般社会に分かりやすい「正社員」という表現で、山中氏
は幾度も語っている。

NHKニュースで、翌日の京大での講演会で、首相の前で、
田中真紀子文科大臣の前で。

大学のCOE(重点研究)は、期間が長くても10年であ
る。
「30歳で、そこに採用になったとします。ところが、1
0年後に重点研究が終わりを迎えると、40歳になる。そ
の後の就職はきわめて難しい」。

山中教授はその危険に瀕している若い研究仲間のことを念
頭に浮かべ、その将来を真剣に心配していた。

「正社員」つまり、終身雇用にしてほしい。でないと、サ
イエンスは成り立たないし、意欲ある若者を集めることが
できない。

これは今日のこの国の大学の大学院学生、研究者のすべて
にあてはまる問題である。過去のノーベル賞受賞者も、3
0代の研究が決定的に重要だったと語っている。

最も重要な30代。
ところが、この国の研究者の30代は、身分が定まらず、
数年先の任期切れを前に、公募を見れば片端から応募する
しかない不安定な立ち位置にいる。公募にはずれれば、研
究を止めるしかない。
他ならぬ山中教授自身だって、奈良先端研の助教授に着く
際、公募にはずれたら研究は止める覚悟で応募したのだっ
た。

●田中真紀子文科大臣は、訪問したノーベル賞受賞決定者
を前にして、予算については、一律ではなく、「めりはり
をつけましょう」と約束していた。

これは危険な発言ではないだろうか。山中教授チームの研
究がどれほど重要だとしても、重要な研究は、それだけで
はない。脚光を浴びた研究ばかりを優遇すれば、基礎研究
が疎かになって、結果、今後の「山中教授」は登場しなく
なる恐れがあるのだ。

●やまねこと同じ視角から、山中教授のテレビ会見を掲載
しているサイトが見つかりました。

サイトの末尾に、若手研究者のアンケートが掲載されてい
ます。

「月収20万、ボーナス無し、国保・年金は自分持ち。家族
を養っており、経済的には限界に近い」(38歳)

「夫婦でポスドク。低賃金で、生活が苦しく、子どもを育
てる経済的余裕さえない。早急な現実的な未来を求めてい
る」(34歳)

「時給1200円程度、研究員というよりは雑用係。同じ部署
には無給の研究員や、私と同様の身分の博士課程修了者が
何人もいる」(34歳)

やまねこ通信は、「芥川賞受賞作家、円城塔氏のポスドク
問題」で同じテーマについて書いています。


「美しい日本の国」を守ろうと、保守政党のトップが語
ている模様。

けれど、具体的に、どんな国を、どうやって守ると言うの
かまったく不明だから、リアルな世界で活動する政治家の
発言としたら、ほとんど意味をなしていない。

若手の研究者の裾野が狭くなる一方の教育研究政策を根本
的に見なおさねば、この国の学問研究には未来がないだろ
う。

その予算をどこから出したらいいのか?

答は一つしかないとやまねこは考える。
国防費を削るのです。

その予算を教育、科学、芸術に回して、研究が盛んで素晴
らしいものがわくわくするほどある国にすると良い。
素晴らしい国を作り、攻撃して滅ぼそうとする外敵が存在
しなくなれば、何よりも「国防」につながるのですから。

この考えはやまねこのオリジナルではありませんが。

ところが、原子力工学関連のみなさまも、経産相、原子力
委員会などの政府関連の公職、東電などの電力会社、日立
東芝などの重電メーカー、東大などの大学が一体となった
「原子力ムラ」と呼ばれる巨大予算に守られた方々だった
のですね。

カネは大いにあったのだ。今だって、ある!
どうやったら、「悪い」方向ではなく、「良い」方向にカ
ネを予算化する道を、人々が選択できるようになるのだろ
う?


うらおもて・やまねこでした。

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