@@@@やまねこ通信226号@@@@
山中教授はこの数年、ノーベル賞受賞を予想され、メディ
アに登場していた。奈良先端科学大での研究が実を結び、
京大に移って2年目の2006年、英国の学会誌セルに論
文を発表してからノーベル賞受賞は6年目、山中教授は5
0歳の若さである。
アに登場していた。奈良先端科学大での研究が実を結び、
京大に移って2年目の2006年、英国の学会誌セルに論
文を発表してからノーベル賞受賞は6年目、山中教授は5
0歳の若さである。
物理と化学の部門には8人の受賞者。けれど医学・生理学
部門は利根川進氏についで2人目である。
●受賞発表後の山中教授はメディアに登場し、第一に、日
本国に支援してもらったことに感謝した。次には、家族に
感謝した。まことに優等生的で良くできたご返事だこと。
毎年、候補に上がっていたから、準備期間があったのかも
しれない、とやまねこは思った。
本国に支援してもらったことに感謝した。次には、家族に
感謝した。まことに優等生的で良くできたご返事だこと。
毎年、候補に上がっていたから、準備期間があったのかも
しれない、とやまねこは思った。
●受賞発表以後、毎日メディアに登場する山中氏。二日目
には妻と同伴だった。妻・山中知佳氏は皮膚科医とのこと。
受賞会見は、妻の職業には触れなかった。受賞者が女性で
夫に職業がある場合、それに触れぬままのことはないだろ
うにね。
山中千佳氏は、皮膚科医としてではなく、山中教授の妻の
役割で出ていた。
女性が自分の職業や役割のためでなく、夫の職務や功労の
ため、妻としてメディアに出る時、夫を立てるためか、過
度に控えめに振る舞い、途切れ途切れの言葉以外、まとま
った発言をすることのない姿を見て、げんなりすることが
多かったやまねこ。
いまなお「良妻賢母神話」の他のモデルが見つけられては
いないのだろうか?友だちのように振る舞う少し幼稚な感
じのパターンは、若めの政治家の妻に少なくないけれど。
山中知佳氏はやはり控えめであった。けれど、夫を過度に
立てることなく、「へりくだらず、おもねず、おごらず」、
家の中でもこうであろうと思わせる、自然な語り口で夫の
人柄を紹介した姿を見て、やまねこはいたく好感をいだい
た。
●山中教授のノーベル賞受賞は、これまでの受賞者の場合
と、違うことが2,3ある。
第一に、これまでの受賞者は、30代に発表した研究の成
果のゆえに70代以後に受賞する人が多かった。過去の栄
光に光が当てられたとの趣だった。さらに、米国など外国
の研究機関での業績だったり、在住だったりすると、日本
人の受賞と言っても、栄誉だけにフットライトが当てられ
るが、国内にはほとんど実際の影響を及ぼさぬ一過性のも
のであることが多かったのではなかっただろうか。
第二に、理論物理学など、ビジネスには無縁の学問領域が
多かった。ノーベル賞は、根本的な変化をもたらす象牙の
塔の基礎研究に光を当ててくれる賞であった。
第三に、これまでのノーベル賞受賞者は、カミオカンデの
小柴さんを除くと、単独、あるいは小グループでの研究で
あった。
●ところが、山中教授の場合、本人が語る様に、外国の学
会誌に論文が実験結果が掲載されて6年後、医療面での実
用化がまだなされていない段階での「早すぎる」受賞であ
り、ノーベル賞受賞理由に述べられたように、「革命的」
理論、技術である。
第一に、京大のiPS細胞研究所は、ビッグサイエンスのC
OEの中心として、多数の若手研究者を結集し、実用化を
めざして、プロジェクトが現在進行中である。今後の発展
によって、人の生殖の原理を覆す可能性もすでに見えてお
り、社会的影響力がきわめて大きい。
このことに関して、山中教授はすでに、iPS細胞研究所に
倫理の専門家を専任で採用することを表明している。
第二に、武田薬品などの製薬会社との共同研究が進行中で
あり、バイオ関連のビッグビジネスの可能性の夢がふくら
み、資本の後ろ盾が無限大の領域であるらしい。受賞を機
に、バイオ産業を国の柱にし、国内の産業、ものづくりの
衰弱を食い止めようとの構想も、財界、政府で語られてい
る。
●本稿で、やまねこは、第一の問題、中でも、研究者の雇
用問題に限って考えて見たい。
国の予算重点配分に感謝し、家族に感謝した後に、山中教
授は何を語っただろう?
授は何を語っただろう?
「受賞研究は自分一人の仕事ではありません」。
奈良先端研以来の共同研究者、高橋和利さんの名前を出し
もした。学会誌セルに掲載された研究は2人の連名だった。
現在、京大iPS細胞研究所で働く研究者のうち、正規雇用者
は10%という。
「今後、全員とは言わないが、できるだけ多数の研究者を
正社員にしてほしい」。
一般社会に分かりやすい「正社員」という表現で、山中氏
は幾度も語っている。
NHKニュースで、翌日の京大での講演会で、首相の前で、
田中真紀子文科大臣の前で。
大学のCOE(重点研究)は、期間が長くても10年であ
る。
「30歳で、そこに採用になったとします。ところが、1
0年後に重点研究が終わりを迎えると、40歳になる。そ
の後の就職はきわめて難しい」。
山中教授はその危険に瀕している若い研究仲間のことを念
頭に浮かべ、その将来を真剣に心配していた。
「正社員」つまり、終身雇用にしてほしい。でないと、サ
イエンスは成り立たないし、意欲ある若者を集めることが
できない。
これは今日のこの国の大学の大学院学生、研究者のすべて
にあてはまる問題である。過去のノーベル賞受賞者も、3
0代の研究が決定的に重要だったと語っている。
最も重要な30代。
ところが、この国の研究者の30代は、身分が定まらず、
数年先の任期切れを前に、公募を見れば片端から応募する
しかない不安定な立ち位置にいる。公募にはずれれば、研
究を止めるしかない。
他ならぬ山中教授自身だって、奈良先端研の助教授に着く
際、公募にはずれたら研究は止める覚悟で応募したのだっ
た。
●田中真紀子文科大臣は、訪問したノーベル賞受賞決定者
を前にして、予算については、一律ではなく、「めりはり
をつけましょう」と約束していた。
これは危険な発言ではないだろうか。山中教授チームの研
究がどれほど重要だとしても、重要な研究は、それだけで
はない。脚光を浴びた研究ばかりを優遇すれば、基礎研究
が疎かになって、結果、今後の「山中教授」は登場しなく
なる恐れがあるのだ。
●やまねこと同じ視角から、山中教授のテレビ会見を掲載
しているサイトが見つかりました。
サイトの末尾に、若手研究者のアンケートが掲載されてい
ます。
「月収20万、ボーナス無し、国保・年金は自分持ち。家族
を養っており、経済的には限界に近い」(38歳)
「夫婦でポスドク。低賃金で、生活が苦しく、子どもを育
てる経済的余裕さえない。早急な現実的な未来を求めてい
る」(34歳)
「時給1200円程度、研究員というよりは雑用係。同じ部署
には無給の研究員や、私と同様の身分の博士課程修了者が
何人もいる」(34歳)
やまねこ通信は、「芥川賞受賞作家、円城塔氏のポスドク
問題」で同じテーマについて書いています。
●「美しい日本の国」を守ろうと、保守政党のトップが語
っている模様。
けれど、具体的に、どんな国を、どうやって守ると言うの
かまったく不明だから、リアルな世界で活動する政治家の
発言としたら、ほとんど意味をなしていない。
若手の研究者の裾野が狭くなる一方の教育研究政策を根本
的に見なおさねば、この国の学問研究には未来がないだろ
う。
その予算をどこから出したらいいのか?
答は一つしかないとやまねこは考える。
国防費を削るのです。
その予算を教育、科学、芸術に回して、研究が盛んで素晴
らしいものがわくわくするほどある国にすると良い。
素晴らしい国を作り、攻撃して滅ぼそうとする外敵が存在
しなくなれば、何よりも「国防」につながるのですから。
この考えはやまねこのオリジナルではありませんが。
ところが、原子力工学関連のみなさまも、経産相、原子力
委員会などの政府関連の公職、東電などの電力会社、日立
東芝などの重電メーカー、東大などの大学が一体となった
「原子力ムラ」と呼ばれる巨大予算に守られた方々だった
のですね。
カネは大いにあったのだ。今だって、ある!
どうやったら、「悪い」方向ではなく、「良い」方向にカ
ネを予算化する道を、人々が選択できるようになるのだろ
う?
うらおもて・やまねこでした。
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