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2013年9月29日日曜日

やまねこ通信280号 「あまちゃん」はなにが面白かったのか?

やまねこ通信280号
 
「あまちゃん」が今日で終わった。
大評判となったNHKの連続テレビ小説。
宮本信子が出演。夫伊丹十三の死後、応援がてら見逃さ
ようにしているやまねこ。

こんなに引っ張られるとは初めは予想もしなかった。
6月末から7月にかけて入院した有明病院でも欠かさず見
ていた。

9月28日で終わるというので「あまちゃんロス症候群」
などともいわれている。分かる気がする。
何が面白いのか?

●宮本信子演ずる天野夏は三陸の海女。海女クラブの会長
をつとめ、仲間の海女のリーダー。海女の女たちは自力で
稼ぐ術をもっているため、威勢がよく男達におもねる必要
がなく、女たちが互の命をまもり力を合わせるシスターフ
ッドの世界。

厳しい労働と引換えに得られる女たちの経済力が、このド
ラマの基調となる明るさを作っている。

海女の一人は言う。
「ウニはゼニだ」

高校2年の夏、母に連れられ初めて北三陸で祖母の夏ばっ
ぱが海にもぐってウニを獲る様子を目にしたあきは、目を
輝かす。
「かっけー!」

ウニを一個とれば500円で売れる。東京の退屈な高校生
活で目が死んでいたあきは海女の修行をすることに決める。

海に面した自然環境、労働と経済と仲間同士のつながりか
らなる手応えある毎日の暮らし。朝は海にもぐり昼は北三
陸鉄道袖ヶ浦駅の利亜洲で食堂を営業。夜は同じ場所がカ
ラオケスナックに転じ、営業と気晴らしの境のあいまいな
店を営む海女仲間たち。

●夏ばっぱの娘、小泉今日子演ずる春子は東京に家出後、
結婚したことを母親に伝えぬままの20年ぶりの帰郷だっ
た。「おらのママに歴史あり」で語られるように春子は東
京でアイドルになるつもりだった。

「あまちゃん」では80年代のアイドルの歌がいくつも紹
され同時代感覚を呼び覚ましてくれる。春子はももえち
ん、聖子ちゃんの次の世代の歌手志願の娘だった。

薬師丸ひろ子演ずる鈴鹿ひろ美、その元マネージャー今は
音楽界のカリスマプロデューサー太巻きのからむ深い訳が
あって、春子はアイドルの道を閉ざされた。

「あまちゃん」は春子の怨恨物語でもある。太巻きはこの
ドラマでは一見悪役と見える掻き回し役トリックスター。

東京に戻ることを拒み、北三陸で高校に通うようになった
あきにゆいという親友ができた。東京でアイドルになるこ
とを念願するゆいとともにあきは「潮騒のメモリーズ」と
いう二人組を作る。これがネットで好評を博し町おこしつ
ながる。

ネットを見てカリスマプロデューサー太巻きの会社の社員
水口が一般人に身をやつして北三陸に。AKBという芸能界
の実際のアイドル作りを仕掛ける秋元康の仕事が下敷と思
われるプロダクション。地方での目立つ娘たちをスカウト
する仕事である。

●第二部東京編ではあきは水口の導きで東京上野へ。芸能
界の下積みをさんざん経たあとに映画の主演に抜擢され鈴
鹿ひろ美と共演。このころには、春子はプロダクションの
社長になっている。映画が封切りされたところに、201
1年3月11日の東日本大震災が起こる。

あきは東京の芸能界を引退し北三陸に戻った。
「おかまいねぐ」と夏ばっぱからのメール。
さいわい命に別状はなかった。ところがウニの宿る袖ヶ浦
湾の中にガレキが流れ込みウニが消えてしまった。
いつになったらウニが取れるか分からない。男たちのかん
かんがくがく。

これを聞いて夏ばっぱが一喝。
「これじゃあ、いつまでたっても被災地だ。一週間でガレ
キ撤去してくれ!」

これで皆の気持ちがまとまり目標ができた。全力でガレキ
を撤去し、ウニの子どもを多数放流することで奇跡的に翌
年の夏にはウニが発生。海女クラブの仕事が再開した。

●最後の週、津波で流されたあと、あきの発案で何とか再
建した「海女カフェ」で3組の盛大な結婚式が開かれる。
主人公の若いあきやゆいのではない。

大女優鈴鹿ひろ美と太巻き。二人はこの20年、秘密のカ
ップルだった。北鉄駅長大吉とまめぶの阿部ちゃん。二人
はかつてほんのしばらく夫婦だった。最後にあきの両親春
子とタクシー運転手黒川の、どれも古いカップルの結婚式
である。

●連続テレビ小説「あまちゃん」では、期待された物語は
必ず裏切られ、微妙にねじれた筋となって展開する。アイ
ドルになりたかったのは「可愛い方」のゆいであった。と
ころが「なまってる方」のあきがアイドルになった。

東京では「暗くて意欲がなく何の能力もない」と母春子が
小言を投げていたあきが、周囲の人々を楽しい思いにし元
気づけるアイドルになった。

どんな幸福の場面も完璧ではなく何かが欠落している。春
子の結婚式には父親であり夏ばっぱの夫の忠兵衛さんは姿
を見せない。遠洋マグロの船が出発したのだ。

夏ばっぱ、春子、あきと三代の女系が続く天野家は、これ
までも常に「亭主元気で留守がいい」一家だった。

北三陸でいちばん幸福な家族とあきが思ったゆいの一家は、
父の病気、母の家出、ゆいの高校中退とヤンキー生活とい
うどん底を経験する。

ゆいはどん底から容易に回復することはない。「劇的」な
奇跡と見える展開も微妙にほろ苦く、まめぶのように甘い
のか塩辛いのか分からないまま「あまちゃん」のドラマは
進む。

この何かが欠落した微妙なねじれが、われわれの生きる現
実とそっくりなのである。完璧な幸福などどこにもありは
しない。だから完璧な不幸と見える状況もなんとかなるの
ではないか。

海女カフェでの結婚式のあとの挨拶で、海女クラブ会長の
夏ばっぱは大震災からの復興についてリアリストよろしく
注文を出した。
「太巻きさん、あんたみたいな金持ちはおカネをいっぱい
出してくれ。すると私らは元気がいっぱい出てくる!」

●以上、見ていた人には「分かりきった」話、けれど見て
ない人には「ピンと来ない」といわれそうな文を書き連ね
てしまいました。

宮藤官九郎の脚本。ドラマ作りがあまりにも巧みで、これ
じゃあ、他のテレビドラマはアホらしくて見ちゃいられな
くなった。クドカンがテレビドラマの水準を一挙に引き上
げた、とやまねこは思った。

●視聴率27%に気を良くしてか続編を作りたいとNHK
長が漏らしているという。続編が高い期待に応えられるか
どうかは分からない。
それより全編を再放送するのがいいとやまねこは思う。

「あまちゃん」はダイジェスト版で見てもほんとうの面白
さは伝わらない。細部の筋の曲折、セリフのひとつひとつ
が裏の意味につながってゆくアイロニーが限りなく面白い
のだ。

出来のいいドラマが作られ高視聴率を得ることは良いこと
ではないだろうか。お笑い番組やバカバカしいコントばか
りが高視聴率だった時代、ドラマが衰退していた。今、お
笑い番組の王者だったフジテレビが左前だという。3.1
1以後、人々の気分が変化したのだろうか。

同じ時期、TBSでは40%を超える視聴率のドラマ、「半沢
直樹」が放映されていた。「あまちゃん」の春子と同じく
「半沢直樹」も、過去20年間の怨恨を抱えた人物である。
これについては別の機会にお伝えします。

●やまねこのその後について、ご心配を頂いています。
7月下旬の退院後に使用していた松葉杖は8月23日病院に
返却し、その後ステッキを使っています。現在、諏訪中央
病院のリハビリ科に週一度通い、筋肉回復に向けてのスト
レッチ体操の指導を受け、自宅で毎日何度か繰り返してい
ます。

今年3月末、春の彼岸過ぎに発症した脛骨の障害、9月末、
秋の彼岸を迎えてこれで半年が経ちました。
少しづつ普通歩行に近づいています。
お見舞いありがとうございました。


うらおもて・やまねこでした。



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