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2015年3月7日土曜日

やまねこ通信312号:竹信三恵子著『ピケティ入門』読書会で何が語られたか?


@@@やまねこ通信312号@@@

●やまねこの棲家では、「ピケティ入門読書会」を開い
ている。5回が終わった。使っている本は、竹信三恵子
著『ピケティ入門』金曜日1200円。全部で127頁
の読みやすい本である。

筆者竹信三恵子さんは元朝日新聞記者。男女共同参画の
視点から女たちの働く現場、背後にある行政の対応など
を報告してきた。今は、退職して和光大学教員。著書多
数。
なかでも『女性を活用する国、しない国』(岩波ブック
レット)はやまねこの仲間たちの愛読書。

●『ピケティ入門』はどんな本だろう?
まず、『21世紀の資本』の語るところの核心を解説す
る。資本主義経済のもとでは、放置すれば格差が拡大し
てゆくことを歴史的に証明した。英仏の徴税記録を歴史
的に調査して社会の所得配分を分析。

 r > g という不等式。

資産ある人々の所有する富の上げる利益の率(r)の方が、
人々の勤労が生み出した総所得(g)の伸びより高い。そ
れゆえ、富を所有する人々と、勤労者との格差はどんどん
拡大するとの意味。

格差を少なくするためピケティは累進課税の強化が必要と
語る。これは税収を増やすことばかりが目的ではなく、企
業経営者、医師弁護士など「資格社会」メリトクラシーの
高所得者の時に法外な高報酬を無意味にするためでもある。

かつての最高税率は米国で70%、日本で75%であった。
しかし今では30%~40%に下落している。富裕層の富
が、税率の低い国に逃れてしまうからである。

これを避け、タックスヘイブンに富裕層が逃れる道をふさ
ぐため、「世界的資本税」という「有益なユートピア」を
ピケティは提案している。

●やまねこたちは、第3章、「ピケティと日本の格差」以
後の部分に格別の興味を抱いた。「格差社会」について語
るとき、日本人読者にとって不可欠な事柄を、竹信さんが
手際よく整理している。 

日本社会では、正規と非正規、男性と女性など、勤労者の
属性による賃金差別が放置されたまま。

われわれの生きてきた、この20年余の日本社会。新自由
主義経済による民営化路線、国鉄、NTTを民間企業にしたこ
と、小泉・竹中のいわゆる規制緩和がこの社会にどんな変
化をもたらしたかがよく整理されている。労働組合が解体
され、旧社会党である社民党が退潮したことなどを語り合
う。戦後経済と社会のあらましが理解できて非常に面白い
箇所だった。

●第4章「ピケティから考えるアベノミクス」では、格差
拡大を一見解決するかの装いのため、安倍政権は、「女性
の活躍」「地方の創生」などのキャッチフレーズを掲げて
いる。
けれど、具体策は何もない。予算ばかり投じて、成果なく
失敗した実例もある。企業が合併を重ねて資本は一層大き
くなってゆくが、そこで働く勤労者には賃金上昇の保障ど
ころか、雇用継続さえ危うくなっている現状。

育児や介護は人間生活の基本なのに、そのため転勤を拒否
すると年収が下落する懸念のある雇用制度の導入見込みの
話。人材派遣法の改訂で、派遣社員がどんどん多くなって
いることなど、われわれを取り巻いている切実な政治問題
が語られる。

地方に女たちが定住しにくいのはなぜか?人口の流出促す
県別最低賃金、自己責任論へのすり替え、収益の向上が働
き手に向かわないこと。
低賃金女性が支える「女性の活躍」、結婚による格差、教
育格差、奨学金のサラ金化、学歴格差が非正規に直結、量
的緩和と格差。

いったい、利益はどこに行ってしまうのか?
企業の競争力強化のため、自己資本がどんどん大きくなる。
その結果、最大の利益を上げた企業まで、派遣社員を増や
している。

こんなことを語り合った。堤義明の西武鉄道・国土計画
は企業税の対象となる黒字ではなく長らく赤字を出して
いた。結果、広大な所有地を抱えるようになり、同社の
所有地を長野五輪の舞台としたこと。大企業の勤労者の
能力を査定する人事考課は上司の胸先三寸で決定され、
その後の大きな年収の格差につながること。秋葉原事件
の加害者はつい最近死刑が確定したこと。彼は派遣社員
としてトヨタの工場で働き、平均的な働きをしていた。
32歳だった。正社員なら家を買い家族を作ろうと思う
かもしれずそれが可能になるだろう。ところが再契約を
断られた。絶望した彼は、その直後に愛知から日曜日の
秋葉原の歩行者天国に向かった。自分以外のすべての人
々が幸福に見えた。子ども時代の家庭に問題があったこ
とも語られた。最高裁では情状酌量はされなかった。被
害者の中にも同じ境遇の人がいただろう。それを思うと
胸が痛む。

●回を重ねるごとに、参加する人の発言が多くなる。一段
落の音読を終えると、つぶやき、ひとりごとが口をついて
出る。普段、自分の中に宿っているとは思わなかった言葉
が、表に溢れ出す。

この2、30年の社会の変化についての本をともに読んで、
自分の生きてきた足跡をそこに重ね合わせる。見えなかっ
たものが見えてくる。おかしいな、と思っていた事柄が社
会システムの変化だったことに気づく。

自分の語りに根拠が見つかる。人に話せる意見になってゆ
く。語ることでさらに気づくことが増えてゆく。逆に、「
分からないこと」が見えてくる。疑問がわきだす。質問した
くなる。一層の好奇心がわきあがる。こんな流れができてい
る。老若男女80代~40代4、5人のメンバー。

●「格差問題」と名付けられているテーマこそ、ちの男女
共生ネットの抱えている大きなテーマ。男女の格差、貧
富の格差、中央に対する地方の格差。

「格差」の中にうもれているとき、私たちは自分の置かれ
た事情が「自然」なことだと思う。仕方ないこと。そこか
ら出る可能性を思うことはない。「格差社会」が存在し、
自分がその中に生きていることなど、思いおよばず自分の
責任だからと受け止めるうち、自尊感情がそこなわれてゆ
く。まずはその現実を理解できるといい。

●ちの男女共生ネット第14回勉強会は「格差社会」をと
りあげます。4月25日(土)午前10時~12時半。

明日、松本駅前の松本市Mウィングで、竹信三恵子さんの
トークがあります。やまねこは仲間たちと共に、クルマを
満員にして駆けつける予定です。



うらおもて・やまねこでした。

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