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2016年8月14日日曜日

やまねこ通信364号:『シン・ゴジラ』は二極分化社会の清涼剤、先を知りたければ先の大戦を勉強するのが近道

@@@やまねこ通信364号@@@
『シン・ゴジラ』は二極分化社会の清涼剤、先を知りたければ先の大戦を勉強するのが近道

『シン・ゴジラ』を岡谷で見た。夏休み中だから大入り満員を心
配したが、四分の1の入り。開始間もなくテンポよくぐいぐい引
き込む。東京湾海底トンネルで不審な事故が起こる。地震では
ない。原因は怪獣、やがてゴジラと命名される。この事件に対し
てこの国の行政機構のトップ、総理大臣も霞ヶ関もなすすべが
ない。内閣の会議に出席するときは、ホンネを語ってはらない。

常に上司の立場を慮ること。これが至上命令の上下関係。だか
らどうでもいい結論しか出てこない政府の日常。ところが、今回
は正体不明の怪獣が東京に発生した。想定外の事態。「災害」
の原因が「生き物」である事実を受け止めることができず、まず、
初期対応が遅れてしまうこの国の縦割り行政システムの現実が
露呈する。そこに登場するのが、官僚機構の若手矢口をトップと
するチーム。

▲若手官僚矢口をリーダーとしてそれぞれの知識と人脈を生か
して対処しようと努力する若手チームが立ち上がる。矢口チーム
の前に立ちはだかるのが、既存の政府官僚機構である。敵は怪
物である前に、この国の政府の不決断システムだ。

首相は幾つものハードルの前で立ち往生。警察の手には負えな
い。では、自衛隊の出動、避難者に犠牲が出ることを見越して怪
物を攻撃すること。米軍に協力を依頼すること。米軍が怪物を核
ミサイルで攻撃すること。こうした前代未聞のハードルを、矢口チ
ームに促され、政府は踏み越えてゆく。都心部が崩壊し、政府は
立川に移動。移動する中で犠牲者が出て首相は交代。実のとこ
ろ、首相は誰でもいいのだ。

政府が依頼して、米軍の核ミサイルでゴジラを攻撃する時刻が迫
ってくる。核ミサイルを受ければ東京は死んでしまう。矢口チーム
は、日本独自の退治方法を熱心に探求。結果、ゴジラのエネルギ
ーが原発と同じだから、冷却する血液を凝固させればいい。その
方法を発見して全国から調達。それに成功したのは、米軍ミサイ
ル発射の1時間前だった。ゴジラは東京駅の上にど~んと倒れた
まま固定させられる。

▲巨体のゴジラが進むことで、ビルが押し倒され、道路や線路が
ひん曲がる。破壊力の描写は、東北大地震の津波のため、市街
地に押し寄せた車の群れそっくり。あの津波がゴジラと思うといい。

破壊された道路、建物は、阪神大震災、関東大震災、東京大空襲
の重ね書きだ。この情景のリアル感がものすごい。蒲田に上陸して
品川の人家密集地をひたすら進む。目的は前に進むこと。冷却の
ため海に引き返し、鎌倉に上陸。最後は、ヒルズ族の住む港区の
超高層のビル群が、ゴジラのしっぽによってあえなくなぎ倒される。

大阪出身の、庵野秀明監督による東京の大破壊。これは二極分化
する社会の怨恨をゴジラが代弁してくれたとの受け止め方も可能で
あろう。港区の超高層ビルなんて、ゴジラにかかればひとたまりもな
いのだ。伊福部昭の『ゴジラ』音楽が引用される。ダダダン、ダダダ
ン、ダダダ、ダダダン。

▲昨年9月に国会を取り巻いた10万人を超えるデモ隊のエネルギ
ーの向かう先、国会と霞ヶ関。この標的を、ゴジラは易々と破壊す
る。移動する原発と思ったらいい。ところが放射能半減期が異様に
早く、最も進んだ生物であることが矢口チームのメンバーによって
発見されてゆく。それにしても、放射性廃棄物が東京湾で廃棄され
ていたこととゴジラの誕生に気づいた元大学教授の失踪・・・このあ
たりは、もう一度見なくては把握できない。

▲憲法9条が封印してきた国防、米国支援の要請。こうした国防、外
交問題を早めに「前進」させる意欲で制作されていると受け止める人
々がいるかもしれない。けれどやまねこはその考えには与しない。

今日の政治状況をリアルに描くなら、ここで示されたさまざまな手段
を手当たり次第、使いまわすしかないのだから。東日本大震災の後
にも、一向に死ぬことがない霞ヶ関原発ムラ。この国の異様さが、あ
りったけ盛り込まれている大規模な社会の自画像とも見える。できる
だけ多くの人々に見てもらいたい映画だ。

▲さしあたりの結論。無能と不決断の古い政府・霞ヶ関がゴジラによ
って破壊された。新しい国を若手官僚「矢口チーム」が「正義の救済
者」となって、ゴジラが破壊した古い東京を、別の場所に新しく再建す
る未来への希望が示されるとの結論だが・・・

矢口チームの面々が、どれも「有能な」テクノクラート。ところがそこに
は、日々の暮らしを生きる人々の姿がまったく見えてこない。今より
もっとひどい未来図しか想像できないのである。

過去の大戦の深入りの経過、少数のエリート参謀たちの無謀作戦を、
誰も止めることができなかったこの国の歴史。嘘ででっち上げた滿蒙
開拓団の棄民政策、こうした歴史を鑑みると、矢口チームに希望を託
すことは、とてもできない。むしろ戦争の歴史を改めてじっくり勉強し直
すのが最善の道だと思う。


うらおもて・やまねこでした。



2 件のコメント:

  1. 詳細なレビュー、ありがとうございました。ネットでの評判があまりに良いので見たかったのですが、普段の3倍の仕事がありお盆休みがなくなりました(>_<)。DVDになったら見ようかと思います。「シンゾー・ゴジラ」も危険ですね。吉永小百合さんが思い切った発言をされました。拍手です。今日は終戦記念日。目には目を、の発想はやめましょう。皆様穏やかな日をおすごしください。(本読めていません。長くお借りします)

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  2. やよいさま。コメントありがとう。仕事が多いのはいいことですね。
    祝日がどんどん増えるのは、困ったものだとかねがね考えておりましたが。つまり、正規雇用でない時間給、日給の勤労者が、勤労の機会を奪われるからなんです。「シンゾー」は『シン・ゴジラ』の中でどんな役割を果たしているのか、最度しっかり見てきましょう。

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