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2012年8月16日木曜日

「里山」に住む。先住動物と権利をシェアする


@@@@やまねこ通信216@@@@

やまねこの棲家のあたりは、ただいま、年に一度の賑わい
である。それぞれの敷地に、他府県ナンバーの車が停まり
人の出入りのざわめきが伝わる。まるで毎日が日曜日の雰
囲気である。

●数日前のことである。
所有者が変わった隣家の前を通りかかったところ、滞在中
の一家の妻が、慌ただしい声で私を呼び止めた。いったい
どうしたのだろう。
「小鳥が巣を作ったんです!」
彼女が指さす先を見ると、細い広葉樹から伸びた大枝の、
幹から遠い所に、なんと、小枝を寄せて造られた真ん丸の
ボール状の巣が吊り下がっているではないか。直系10セン
チにもならない大きさ。大人の背丈ほどの高さの場所であ
る。

「へえ、こんなところに!」
「黒い小鳥なんですよ。中に雛がいるんです」
隣人は居ても立ってもいられぬ様子で語り続ける。
「黒い鳥ね。いったいなんだろう?」

もしかしたら、この地に定住するやまねこが、少しは小鳥
についての知識があるかと、隣人は頼りにしたのかもしれ
ない。

けれど、やまねこは花鳥風月にはほとんど関心の向かない、
「花より団子主義」を信条としている。残念だけど黒い小
型の小鳥といわれても、頭の中は真っ白である。

●ところが、意外にも早めに解決のタイミングがやってき
た。
一昨日のことである。2、3軒向こうのお宅の前を通りか
ったところ、家屋の前でバタバタ物音がする。

何だろう。近よってみると、カラスよりは小さめい中型の
鳥が、家屋を取り巻く網に身体を絡めとられ、逃れようと
必死にもがいているのであった。

人の背丈よりも高い所である。梯子が必要であろう。滞在
中だったその家の扉をノックしたところ、顔見知りのご夫
婦が出てきた。
「どうしたら良いかしら?」と訊ねる。
「管理事務所に連絡するといいんじゃないでしょうか?」

妻が電話する。待つことしばし。鳥を観察すると、黒い羽
根に白い斑点、頭の天辺に赤い色がついている。
「アカゲラだわ」と妻が言う。

これがアカゲラなのか。キツツキの仲間のアカゲラ。
この鳥にやまねこは、これまでいくど泣かされた事であろ
う。やまねこの棲家をつついて、小さな穴を幾つも穿った
憎らしい鳥である。

毎日のように、木の板をノックする音がやまねこの仕事
屋の後ろで聞こえる。

「また、やって来たな!」
腹を立てて外に飛び出したころには、アカゲラは、げらげ
ら笑いながら、向こうに飛び去っている。
やまねこが家に戻るとまたしても、コツコツ穴を穿ちはじ
める。

業を煮やし、3年前だったか、ご近所のSさんに相談した。
クレオソートを塗ると良い。さらにCDなどきらきら光る
円盤を吊り下げる。猛禽類の眼と間違えて寄り付かなくな
る可能性あり。こんなことを伺い、工事をしていただいた。

結果は目覚ましかった。それ以後、アカゲラはやまねこの
棲家を敬遠して、やって来なくなった。きっと別の家に穴
を開けに向ったのだろう。

●それにしても、キツツキの目的が、木の中の虫の幼虫を
探し出すことであるなら、どうして、住宅の材木をつつく
のだろう?

樹木に詳しい知人に聞いたところ、キツツキが木をつつく
目的は、木の中にすむ虫を捕まえるほかに、枯れ木をつつ
いて大きな音を出し、雌を呼んだり、他の雄に縄張り宣言
をする(ドラミング)などの目的があるという。

それゆえ、しっかりとした柱には穴を開けず、腐食の間近
い樹木を選んで穿つのであるとも。
そうかそうか、アカゲラが訪問する家屋は、木質がやわと
いうことなのか。やまねこはこのように納得した覚えがあ
る。

●隣家の網に捉えられたアカゲラの話に戻ろう。
管理事務所から男性が駆け付けた。男性は大きなアルミ梯
子を家屋に立て掛け、アカゲラを苦しめている網を外そう
と、丁寧に作業する。

網が軒下に貼ってあるのは、この家も、被害に会って、様
々な工夫を凝らした後だったのだ。アカゲラは、解放して
やろうと苦労している人間の気持を理解ずることなく、翼
をバタつかせることを止めようとしない。

仕方なく、網を数カ所はさみで切ってようやく解き放ち、
両手に抱き取って、宙で手を放した。ところが、急降下し
て足を引きづって歩く。

けれど、しばらくするうち、翼を傾けながらも、どうにか
向こうに飛び去った。やれやれ、隣人も、管理事務所の男
性も、やまねこもほっとして見送った。

●アカゲラは明らかに「害鳥」と言っていい。けれど、や
まねこの棲家の地目は「原野」である。もともと、野生動
物が自在に行きかっていた農地を含む里山を40年ほど前か
ら人間が侵略し、造成したのだった。

鹿の姿は、この1か月見かけない。けれど、秋、冬、春の
間、やまねこの棲家の敷地に、6、7頭の鹿の群れが、悠
然と通り過ぎてゆく。

庭の丹精した草花の新芽をむしゃむしゃ食いつくすので、
「食害」対策に腐心する友人もある。

やまねこがこの10年余り住んでいる地域は、樹木が数多
く茂り、その名も、不動産会社Mの名を付け「Mの森」と
名付けられた土地である。

旧財閥系の不動産会社のネーミングを自分の住所に取り込
む気持になれない。やまねこは出来るだけ、その名を使わ
ぬようにしている。

「Mの森」の名で、「自然」を売り物にしていることが明
らかであるが、「森」を切り売りしたのではない。デベロ
ッパーが別荘地として造成し、土木工事を行った。

樹木の抜根伐採の後、電柱を立て、コンクリート道路を造
り、その地下に上下水道を埋設して、区画ごとに売り出し
た。

この売出の時期に、あらためて樹木を植え直し、「森」の
装いを凝らした。「森」という割には、木の幹が細く、せ
いぜい、20年30年の樹齢と見えることに、やまねこは
住むようになって気づいた。要するに「人工林」なのであ
る。

地域に昔からお住いの高齢女性と話をする機会があった。
「あんた、どこに住んでるのかね?」
「Mの森ですよ」
「ああ、Mの森かい。あそこは前は大根畑だった」

そうかそうか、「Mの大根畑」「Mの原野」の名で売り出
すより、「Mの森」とした方が、都市の消費社会に住む購
買者に対して訴求力があっただろう。販売戦略のネーミン
だったと見える。

いずれにしても、人間が手を加えた里山の地域。人と動物
が入り混じりながら暮す場所である。季節を問わず、リス
が出没し、樹木に駆け登っている。冬にはキツネ、タヌキ、
テンが走り過ぎ、時折、交通事故の被害者として路上に
たわっている。

この地で暮らすには、先住動物の立場を尊重する必要があ
る。原理的に、人間は動物と権利をシェアするのが里山の
掟であろうから。


話を、アカゲラの解放に戻すことにしよう。

小さくて黒い小鳥の巣作りについて管理事務所の男性に聞いてみた。
「コガラでしょう」

男性は、事もなげに答えた。
そうそう、隣家にこの返事を伝えなくてはならない。


アカゲラ:Wikipedeaの写真です。


ゴガラWikipedeaの写真です。



うらおもて・やまねこでした。

2 件のコメント:

  1. とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。

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  2. 株入門様

    ご来訪、有難うございます。
    ブログの里山です。
    またおいでくださいますように。

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