チッソ本社の暗闇、 「脱原発・東電株主運動」

@@@やまねこ通信77号@@@

●　チッソ本社の暗闇

やまねこは、１971年の春、東京駅前丸の内のチッソ本社を訪問した。

当時のチッソは水俣病の責任を問われ、加害者転じて、被害者意識に
社内が震えあがっていた。

受付には何人もの男性が緊張した表情で控えている。
名刺を示したやまねこは、「不審者」でないことを検分された後、
中に通される。

一人の社員がわざわざ先導し、奥へと導いてゆく。
静まり返り、薄暗い社内。
社員がどこで働いているのか一向に分らない。

暗い廊下の突き当たりに、なんと、時代劇に出てくる牢屋の堅固な
格子みたいな木と鉄で出来た扉が立ちはだかっていた。

格子の向う側に何人もの男性が待機している。
一人が留め金に体重をあずけた。
すると、ぎいという音とともに格子が開き、人一人がようやく通れる
隙間が開いた。

身をよじらせて隙間をくぐると、目的の場所に導かれる。
やまねこの目的は、厚生課の課長に会うことだった。
やまねこは生命保険のセールスをしていたのである。

課長は何よりもまず、この物々しい対応を、客人にたいして示さねば
ならない社内事情につき、「誠にお恥ずかしいのですが」と長々、
弁明した。

男性は善良そうに見えた。けれどチッソ一家の「受難」の日々の物語ばかり
がその口から語られた。
はやく責任を果たしたら、こんなことしなくてもいいのに、とやまねこは
内心思いながら聞いていた。

向うの角では、制服を着た女子社員達が、肩を寄せ合って食事をしている。
やまねこの方を見ようとしない。
どの顔も青白くくすんで見えた。

やまねこは当時、財閥系生命保険会社の名刺をもっていた。
この名刺は、訪問の目的を示せば、どんな企業でも中に入れてもらえる
「魔法のカード」であった。

長い学生生活をようやく終えたものの、職業がすぐには見つからなかった。
27歳になったやまねこは、毎日、新聞の求人広告を眺めていた。
初任給が比較的良いこと、それに、これまで未知の世界だった丸の内界隈の
大企業のオフィスに、名刺一枚で出入り自由というのが就業動機だった。
春から夏にかけ、5か月ばかり働いた。

薄暗いチッソ本社を出ると、初夏の丸の内の空は明るかった。
チッソ本社ビルの裏側で、反対運動の若い活動家たちが待機し、古本屋も
開いていた。

この当時のことである。
「一株株主」「一株運動」という活動が行われたのは。
水俣病の責任を認めようとせず、被害者との面会を拒否する企業チッソに対し、
株主となり、株主総会で被害者たちの意思を経営者に対して直に伝えようという
運動だった。

1970年11月28日大阪厚生年金会館で同社の株主総会が開かれた。
「一株株主」の水俣病患者、家族、支援者たちは入場を拒否され、
中に入ることのできた支援者たちの発言は、総会屋の怒号でかき消され、
総会は5分で閉会した。
一株株主を排除するために総会屋を雇うことはしないと、事前に専務が
語っていたにもかかわらず、この有様だった。（一部Wikipedia参照）


●　「脱原発・東電株主運動」

このたび、東京電力の株主になって、原発撤退を求める運動が登場した。
ネットのライブドア新聞報道では、二人の女性が東電本店で勧告書を提出
した写真が出ている。
女たちが参加している活動には、期待が持てるぞ。

　http://news.livedoor.com/article/detail/5537554/
市民が東京電力の株主になって原発撤退を求める
「脱原発・東電株主運動」のメンバー２人が６日、東京都千代田区
の東電本店を訪れ、役員報酬の全額返納や被害者救済、生涯に
わたる作業員の健康調査を求める勧告書を提出した。
勧告書は、事故の賠償に伴う電気料金の値上げや税金投入は断じて
許されないとし、過去の経営陣にも寄付を募って全額を東電の資産
で賄うよう要求。希望する被害者を原発以外の事業で雇用すること
も提案した。メンバーの木村結さん（５８）は「東電は被害を過小
評価しているが、幅広く賠償させたい」と話した。６月の株主総会
に向け、約４００人の株主が東電所有の原発を廃炉にするよう提案
しているという。

以下は勧告書の詳細です。
脱原発・東電株主運動http://todenkabu.blog3.fc2.com/

はたして東京電力の株主総会が、どのようにして開催されるのか、やまねこ
の関心は高まる一方である。


うらおもて・やまねこでした。